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黒住浩司 Webサイト

トーチウッドとドクター・フーの比較的考察

内容

トーチウッド

キャプテン・ジャック・ハークネス

数年前、CATVの海外ドラマ専門局で、「秘密情報部トーチウッド」というドラマの放映が始まりました。“秘密情報部”などという冠が付いていたので、スパイアクションものかと思ったのですが、内容はSFサスペンスといったところでしょうか。イギリスBBC(ウェールズ)制作のドラマです。

その内容は、謎めいてはいるけれど魅惑的な人物、キャプテン・ジャック・ハークネス(Captain Jack Harkness)を長とする、「トーチウッド」(Torchwood)という政府にも属さない少人数の秘密組織が、ウェールズのカーディフという街を拠点に、そこの時空の裂け目から侵入する数々のエイリアンと闘う、といった、ある意味、ありふれた話です。私も、初めは何となく見ていただけでしたが、シーズン2、そして3と話が進むにつれて、月並みながら引き込まれて行きました。

キャプテンとイアント

大枠としては、キャプテンを中心に、その4人の仲間たちとの人間関係を織り交ぜたヒーロー・ドラマなのですが、たとえば、チーム内の事務方として地味な役割を演じている、イアント・ジョーンズ(Ianto Jones)。彼は、エイリアンにサイボーグ化された恋人を、仲間に隠して基地内に匿っていたのですが、彼女を人間に戻そうと画策するも裏目に出て、協力者の日本人科学者はドラマの冒頭で無残に殺害され、偶然基地にピザを届けに来た女性は体を乗っ取られ、揚句、恋人はトーチウッドの面々に殺されてしまうという、惨憺たる内容でした。

普通なら、ここでイアントは自らトーチウッドを辞めるか、クビにされるのがオチなのでしょうが、彼は鬱々とした感情を残したまま、チームに残ります。さらに、いつの間にか、キャプテンと恋人同士になります。ちなみに、キャプテンを演じるジョン・バロウマン(John Barrowman)は、舞台俳優出身で歌手でもあったりするのですが、ゲイであることを公言しています。その彼本人のキャラクターを、そのままドラマに反映させて、キャプテンは男も女も愛することができる人、という設定なのです。たまに、キャプテンとイアントは、一緒にダンスを踊ったり、オフィス・ラブごっこなどもしていたりします。

キャプテンの出自

また、シーズン1の終りのほうでは、キャプテンの過去の一部、といってもその名前の由来が明かされる話があります。キャプテンと仲間のトシコ・サトウ(彼女は役の上でも、俳優自身も日本出身)が、第二次大戦中のロンドンにタイムスリップするのですが、そこで、「本物」のキャプテン・ジャック・ハークネスと出会います。彼は、アメリカ空軍の義勇兵であり、その出会いの翌日の出撃で、戦死することになっています。トーチウッドのキャプテンは、記録上から彼の名前を拝借しただけだったのです。まあ、ウルトラセブンが、炭鉱労働者(!)だった人間・モロボシダンの名前を借りたのと、似たような話です。

さて、その「本物」のハークネスですが、出撃前のパーティーで、先に帰った恋人の後を追うべきかどうか、逡巡します。彼の行く末を知っている「偽」キャプテンは、後悔するなと後を追うことを勧めたのですが、結局、彼は会場に戻ってきます。なぜなら、彼は、世間体のために彼女と付き合っていたのであって、ほんとうは今出会った「偽」キャプテンに、恋をしたのでした。そう、彼もゲイだったのです。そして、二人のキャプテンのダンスとキスシーンの後、「偽」キャプテンは光り輝く時空の裂け目を通って、現代へ帰ります。

これを文字で表すと、なんだか気色悪い話だと思う人も多いかもしれませんが、ドラマ自体はとても感動的に演出され、私も涙してしまいました。確か1980年代の話だったと思いますが、イギリスの貴族院議員が、ゴシップ紙に同性愛者であることを暴露され、辞職に追い込まれた、などというニュースを新聞かテレビで見かけたことがありました。それから20年ちょっと、英国の国営放送で同性愛が、興味本意ではなく、堂々と描かれるようになったということは、人間の意識の変革も、少しは進んだということかもしれません。

イアントとの別れ

ちなみに、トーチウッドのシーズン3は、全5話のミニシリーズなのですが、非常に暗い結末で終わります。そのひとつとして、イアントが死んでしまいます(その前に、シーズン2でメンバー2人も死んでしまいますが…)。このエピソードでの、キャプテンとイアントとの別れのシーンも、他と比べられないぐらい感動的です。キャプテンは、不死の身なのですが、死にゆくイアントと、次のような会話が交わされます。

イアント「僕のことを、忘れないで。でも、千年も経ったら…忘れる?」

キャプテン「いや、忘れない。約束だ。」

といったように、「トーチウッド」は、同性愛も異性愛も描き、エイリアンとの闘いでは残虐なシーンも多く、「大人向け」とされているようです。そして、実は、トーチウッド自体は、別のドラマの番外編、いわゆる「スピンオフ」シリーズなのです。

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