CorelDRAW X3のドロップシャドウ
既に「CorelDRAW Graphics Suite X3 新機能/機能拡張」ページで紹介したとおり、CorelDRAW X3のドロップシャドウ効果には、以下の機能拡張が施されています。
- マージモードに対応
- スポットカラーの色分解に対応
この機能拡張の背景には、面白いトリックが使われています。2006年7月4日に催されたX3日本語版の記者発表会でも、このトリックを応用した技法を、デモンストレーションに取り入れてみました。そこで、X3日本語版の発売も記念し、ドロップシャドウを利用した、新しい表現方法を紹介したいと思います。
技術的背景
初めに、なぜマージモードが使えるのか、しかもスポットカラーの分解ができるのか、機能拡張のトリックを種明かししてみましょう。
その方法は簡単です。適当なオブジェクトにドロップシャドウを適用し、それを分解すればよいのです。
- ツールボックスバー「楕円形ツール」をクリックし選択
- 描画ページ上をドラッグ、楕円形オブジェクトを作成
- カラーパレット「ホワイト」カラーボックスをクリック、標準塗りつぶしを適用
- ツールボックスバー「インタラクティブなツールフライアウト」-「インタラクティブドロップシャドウツール」をクリックし選択
- 楕円形オブジェクト上をドラッグ、任意のドロップシャドウを適用
- ドロップシャドウ上を右クリック、コンテキストメニューを表示
- 「~ドロップシャドウグループの分割」をクリック、ドロップシャドウを分割
- ツールボックスバー「選択ツール」をクリックし選択
- 何もないところをクリック、選択を解除
- 分割されたドロップシャドウオブジェクトをクリックして選択
ベクトルオブジェクトのドロップシャドウ
上記の手順を終えると、ドロップシャドウオブジェクトが選択された状態になるわけですが、ここで、ステータスバー「オブジェクト情報」を見てください。
- 長方形 レイヤ1 (レンズ)
と表示されているはずです。しかし、CorelDRAW 12以前では、分割したドロップシャドウオブジェクトは、
- CMYKビットマップ
と表示されました。ドロップシャドウはビットマップベースの特殊効果ですから、生成されるオブジェクトも、ビットマップ画像だったのです。それがX3では、なぜか長方形、すなわちベクトルオブジェクトとして表示されています。
「これはバグ?」という早とちりは、もうやめましょう。実際に、そこには長方形オブジェクトがあるのです。では、なぜビットマップ画像のような見かけをしているのでしょうか?
答えは、「(レンズ)」という情報にあります。レンズとは、透明効果を適用されたオブジェクトであることは、周知の事実です。では、どんな透明効果が適用されているのか、調べてみましょう。
- ツールボックスバー「インタラクティブなツールフライアウト」-「インタラクティブ透明ツール」をクリックし選択
- ドロップシャドウオブジェクトをクリックし選択
上記手順を実行し、プロパティバーの以下の項目とその値に注目してください。
- 種類: ビットマップパターン
- マージモード: 乗算
そして、「始点の透明度ピッカー」には、 ビットマップパターン透明にもかかわらず、標準のリストには見られない謎のパターンが表示されています。
そうです、このパターンこそ、X3でドロップシャドウの形状を作り出しているものの、正体です。
X3 ドロップシャドウの正体
つまりX3では、
- ドロップシャドウの設定に基づきグレースケールのビットマップ画像を生成
- それをパターン画像としてビットマップパターン透明とマージモードを長方形オブジェクトに適用
- 長方形オブジェクトに塗りつぶしカラーを適用
という作業を、インタラクティブドロップシャドウツールでユーザーがのほほんとドラッグしている間に、立派にやり遂げているのです。
ビットマップパターン透明によって、長方形オブジェクトは、パターン画像の黒い部分が透明になります。ですから、長方形オブジェクトといえども、ぼかしのかかった輪郭があるかのようにみえるのです。実体は透明効果ですから、マージモードも使用できます。
そして、長方形自体はベクトルオブジェクトですから、スポットカラーで塗りつぶせば、それがカラー分解されるのは当たり前のことなのです。
効果の応用
「長方形オブジェクトなので、スポットカラーで塗りつぶせる」。ここに、次のステップへのヒントがあります。
それならば、「他の塗りつぶしも使えるのではないか?」と、ほんの少し頭を巡らせればよいのです。
では、ただの楕円形なんてつまらないものは削除し、アートテキストで試してみましょう。
- ツールボックスバー「テキストツール」をクリックし選択
- 描画ウインドウをクリック、任意のアートテキストを入力
- ツールボックスバー「選択ツール」をクリックし選択
- カラーパレット「ホワイト」カラーボックスをクリック、標準塗りつぶしを適用
- ツールボックスバー「インタラクティブなツールフライアウト」-「インタラクティブドロップシャドウツール」をクリックし選択
- プロパティバー「プリセットリスト」リストボックスをクリック、「グロウ(中)」を選択
- プロパティバー「ドロップシャドウのフェードの方向」ボタンをクリック、「外側」を選択
- プロパティバー「ドロップシャドウのフェードのエッジ」ボタンをクリック、「四角の反転」を選択
- ドロップシャドウ上を右クリック、コンテキストメニューを表示
- 「~ドロップシャドウグループを分割」をクリック、ドロップシャドウを分割
- ツールボックスバー「インタラクティブ塗りつぶしツール」をクリックし選択
- 何もないところをクリック、選択を解除
- ドロップシャドウオブジェクト(長方形)をクリックし選択
- プロパティバー「塗りつぶしの種類」リストボックスをクリック、「テクスチャ塗りつぶし」を選択
- プロパティバー「塗りつぶしの編集」ボタンをクリック、「テクスチャ塗りつぶし」ダイアログを開く
- 「テクスチャライブラリ」リストボックスをクリック、「サンプル6」を選択
- 「テクスチャリスト」の「クモの巣」を選択
- 「シェード」カラーボックスをクリック、「ベービーブルー」をクリック
- 「OK」をクリック、ダイアログを閉じる
- ツールボックスバー「インタラクティブドロップシャドウツール」をクリックし選択
- アートテキストオブジェクトをクリックし選択
- プロパティバー「プリセットリスト」リストボックスをクリック、「グロウ(小)」を選択
- プロパティバー「ドロップシャドウのカラー」カラーボックスをクリック、「シアン」を選択
以上で、水面の波紋の上に浮かび上がるかのような効果を、テキストの周辺に与えることができます。
なお、手順20以降は、白いアートテキストオブジェクトと背景との間に自然な区別がつくように、ドロップシャドウを付け加えています。
まとめ
ここまで見てきたように、X3のドロップシャドウは、分割すればビットマップパターン透明で輪郭をぼかされた、長方形オブジェクトになります。そこには、テクスチャ塗りつぶしだけでなく、CorelDRAWのすべての塗りつぶしを適用できます。
すなわち、ビットマップパターン塗りつぶしや、フルカラーパターン塗りつぶしを使うことも、可能なのです。あとは、いろいろな塗りつぶしを試してみることで、さまざまな表現が広がるでしょう。