朝起きてみると、久しぶりの雪が、浦和の街に降っている。今年の初めか、それとも去年のことだっただろうか。とある雪の日には、ハナちゃんの想い出が強く結びついている。
ほとんど家の中で暮らすようになってからも、ハナちゃんは必ず外へ出かけていった。雨の日でも、土砂降りのときはさすがに躊躇していたが、それでも出かけていって足を泥だけにして帰ってきた。その日もハナちゃんは、外に出せと玄関で強情に主張していた。まあ雪だから、猫は炬燵で丸くなるものだし、ハナちゃんも驚いて外には出るまいとの浅はかな考えで、僕はドアを開けてみた。ところが、ハナちゃんは雪の中へさっさと駆け出していってしまった。
1999年から2000年にかけての冬に、ハナちゃんは外で暮らしていたのだから、雪を知っていたのかもしれない。けれども、室内暮らしに慣れてきてもいたので風邪でもひかれたら大変と、後を追ってみた。するとハナちゃんは、向かいのアパートの床下に逃げ込んでしまった。そう、ハナちゃんは、外では僕からも逃げてしまうのだ。
僕がその場所から離れようとすると、ハナちゃんは頭だけを出して鳴き声をあげる。ほんとうは、連れて帰ってほしいのだ。しかし、どうも冷たく溶けた雪の感触が嫌なようだ。さっきはその上を走って逃げたはずなのに、雪を怖がって、ついでに人間も怖がって出てこようとしない。捕まえようと手を伸ばすと、奥へ逃げてしまう。立ち去ろうとすると、また頭を出して呼び止める。しょうがないので、ハナちゃんが通れるぐらいの一本の「獣道」を雪かきして作り、部屋に戻ってみた。やっとハナちゃんは勇気を出して、戻ってきてくれた。
臆病で、わがままだったハナちゃん。雪ぐらいで、驚くな。3歳になって、やっと大人の落ち着きを見せはじめていたけれど、今日の雪にはどんな反応をしただろう。そっぽを向いて、居眠りを続けていただろうか? それとも、また雪の中で立ち往生してしまっただろうか? ハナちゃんは白黒の斑模様だったけれど、黒い毛皮は艶々と光っていた。白い毛皮は、雪のようにきれいだった。