3年前、1999年の10月26日。はっきりとは覚えていないが、僕が家に帰ってきたときだったか、反対にどこかへ出かけようとして玄関口に立ったとき、向かいのアパートのゴミ捨て場に白黒の小さな猫がいた。その猫は、オドオドしながらポリ袋を引っ掻き、ゴミを漁ろうとしていた。
僕とハナちゃんの出会いは、そんな場面だった。新顔の、しかも子猫のようだ。僕が見つめると、ハナちゃんは警戒心をむき出しにする。1、2ヶ月前まで力太郎が放浪してきていたので、猫用のペットフードが家に残っていた。僕はそれをゴミ捨て場から家の前まで少しずつ置いて、最後に餌をたくさん入れたヨーグルトの空きカップまで誘導してみた。おなかがすいていたのだろう。案の定、そろりそろりと近寄ってきた。しかし、僕の姿が見える限り、最後の餌までは食べようとしない。僕は家の中に入り、あとは運を天に任せた。
その時点では、雄か雌かもわからず、てきとうに「キサブロ」と命名しておいた。そして、あの怯え方では人間には懐かずに、どこかへ行ってしまうだろうとも思った。しかし、人間に対する警戒心よりも、餌の確保の方が優先事項だったらしい。ハナちゃんは僕の家の周辺に定着した。毎日ではなかったが、必ず餌を食べに姿を現すようになった。
ちょうどその時期、札幌に仕事で出かけ一晩家を空けたが、僕はハナちゃんのことが心配だった。餌を多めに入れて、家の前に置いておいたカップ。帰宅したとき、ハナちゃんは出迎えてはくれなかったけれど、餌はしっかりと減っていた。どこかへ姿を消してしまうことはなかったようで、一安心。その後も僕の見ていないときに、食事に訪れるようになった。外に出した餌に惹きつけられて、近所の猫も姿を見せるようになり、小さなハナちゃんは縄張り争いの心配まで抱え込んでしまった。
そんな紆余曲折を経て、ハナちゃんは僕のところに残った。3年後の今日、もうハナちゃんの姿はない。しかし、今日はあの始まりの、記念日。僕のカレンダーにだけ、いつまでも刻印され続けるだろう。
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