3ヶ月。再び21日が巡ってきた。あの日は、しだいに遠くなっていく。その間にも小太郎は成長し、ハナちゃんと初めて会った頃よりも、もう小太郎の方が大きいくらいだ。
明日はWebデザインを教えている学校の面接だ。ここでふるいに掛けられた中から、数十人が10月から新入生となり、僕は、彼ら彼女らにIllustratorを教えることになる。その最初の授業では、いつも「ベジェ曲線の編集に慣れ親しむ」というカリキュラムを組んでいる。その内容は、ハナちゃんの写真をなぞって猫のイラストを描いてみる、というものだ。
使っているのは、このサイトの「看板」に登場しているハナちゃんの写真と同じもので、僕のお気に入りの写真というだけでなく、ハナちゃんがちょうど作図にむいたポーズをしている。やや専門的に言えば、あのハナちゃんの輪郭は、20個のアンカーポイントで描けるのだ。去年の11月に初めてこの課題を出したときには、生徒の間から「かわいい」という声がいくつか挙がり、ほとんど親バカの気分だった。
今年も5月にその授業を行ったのだけれど、その直後にハナちゃんが死んでしまった。ハナちゃんが死んだ翌々日に教壇に立つと、数十台のパソコンのすべてにハナちゃんが映し出されていた。
数ヶ月すると、また僕は同じ授業を行う。5月には、生徒たちが一生懸命取り組んでいる最中に、僕の勝手な理由で課題の写真を差し替えることはできなかった。しかし、次回もやはり同じハナちゃんの写真を使うだろう。僕の気持ちの幾分かは、小太郎が慰めてくれた。そして、授業の資料にしか過ぎないけれど、そこにはハナちゃんが死んでしまってからでも活躍できる舞台がある。この授業とて永遠ではないけれど、ハナちゃんには、そして生徒諸君にも頑張ってもらおう。
僕が授業でハナちゃんの写真に囲まれているとき、小太郎はそのとばっちりを受けて、家で留守番だ。もちろん家に残した小太郎のことも、ハナちゃんにしっかり見守ってもらっている。